名前を教えてあげる。


「このお部屋ごと、何処かの無人島に流されちゃえばいいのに。そしたら、哲平とずっと一緒にいられるのにね?」


哲平とはセックスではなく、こうしてじゃれ合うのが好きだ、と思う。

哲平の少し湿った感じの肌は、ビロードみたいな感触で気持ち良かった。


「私はカブト虫……甘い哲平の蜜に吸い寄せられて…大昔、こんな歌あったよね?三田村学園で、この歌好きなお姉さんがいたからよくCD聴いてた」


「知らね……」


「カラオケ行きたかったなあ…」


哲平は目を瞑って、美緒の頭を撫ではじめた。


「美緒」


「ん?」


「……一緒にベトナムで暮らさないか?」


「えっ…?」


薄暗い照明の部屋の中で放たれた哲平の一言に美緒は耳を疑った。


「どうしちゃったの…?」


哲平から手を離し、哲平の顔を見た。
哲平は、暗闇のどこか一点をじっと見つめていた。


「お前、そんな甘ったれたお坊ちゃんと結婚して幸せになれると、本気で思ってるのか?笑わせんな。

親がいなけりゃ、何も出来ない大学生の脛かじりがよ…」


「…なんでそんなこと言うの…?」


哲平が美緒の選択に何か言う権利なんかないはずなのに。


こんなの、哲平らしくない。

美緒は目の前の男から、立て膝のまま後ずさる。手探りでシーツを手繰り寄せ、身体に巻き付けた。




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