名前を教えてあげる。
「…哲平と教習所で再会して、初めは懐かしい気持ちだけだった……けど、ライブとか一緒に行くうちに、いつの間にか大好きになってて。
あの頃は、順が全然私を見てくれなくて、恵理奈もいなくて、自分がなんの為にいるのかよく分からなくなってた時期だったの……哲平といると本当に癒された…
でも、私、哲平を選ぶことは出来ない…何も選ぶことが出来ない。
高校3年の時、赤ちゃんが出来た時から私は順と恵理奈の為に生きるしかなくなったの……わかってくれるよね?」
「……」
重苦しい間のあと、哲平はフッと笑った。
垂れた前髪の間から、白い歯が見えた。
「…冗談だよ。真に受けるんじゃねえ」
「え……」
「言ってみただけだって。お前なんか連れて行くかよ。あほんだら」
哲平は喉仏を突き出すようにして、宙を仰いで言う。
「ジョーク、ジョーク。
全部ジョーク!」
いつもの口調に美緒は、ホッと胸を撫で下ろした。
「…なんだ、びっくりしたあ……
急に変になっちゃうんだもん…いきなりそんなジョーク、リアクションに困るじゃん…」
下半身は裸のまま、ベッドに横座りして、手近にあったブラジャーを拾い、身につけ始めた。