名前を教えてあげる。
「腹、減ったな……」
哲平はサイドテーブルにあった煙草に手を伸ばし、2本目に火を着けた。
後ろ手にホックを掛けようとしながら、美緒は、自分が空腹なのを思い出した。
「そういえば。昼ご飯遅かったけど、さすがにね」
「…1階のコンビニで、食いもん買って来いよ。缶チューハイとツマミも……俺の分も適当に選んでこいよ」
くわえ煙草で言う。
「えっやだあ、一緒に行こうよ!」
「俺、今、腹いてえんだよ……トイレ行くから」
哲平はすっとベッドから降り、椅子に掛けたジーパンから財布を取り出すと、美緒にひょい、と寄越した。
「ほんっと、哲平って面倒臭がりだよね〜……
ま、いいよ。行ってくる。適当に選ぶから文句言わないでよね!」
美緒はベッドから降り、立ち上がった。
「いわねえよ」
「絶対だからね」
美緒はくるりと踵を返した。
「……お前、男に物欲しそうな顔するんじゃねえよ」
ジャケットを羽織った美緒の背中に、投げつけられた哲平の言葉を。
「え…?何?なんか言った?」
多分、着ているはずの順からのメールを気にしていた美緒にはよく聞こえていなかった。
数分後。
パタン、とドアが締まり、スニーカーの足音が遠ざかる。
静けさをとりもどしたテーブルランプが灯る部屋。
19歳の彼女は、たたが1階の売店に行くだけなのに、眉を描いたり、iPadで聴く音楽を選んだりして騒がしい。