名前を教えてあげる。
美緒は月、水、金、日の週4日入ることになっていて、順も同じだった。
他校に通う女子2人組が美緒とシフトを代わってくれ、と言ってきたけれど、断った。
そのことで美緒は彼女達に嫌われてしまったけれど、構わなかった。
美緒だって順と親しくなりたかったのだ。
自然に顔を合わせる機会が多くなる。
2ヶ月前。
ゴールデンウイークが始まる直前の日曜日の昼。
休憩室で焼きそばパンを齧る美緒の視界に、いきなり白い紙包みが現れた。
「惣菜コーナーの竹村さんが昼飯にコロッケ食えってくれたんだ。五百部さん、一緒にどう?」
美緒が見上げると、中里順の顔があった。
「若いから食えるだろって。無茶。俺、こんなに1人で食えねえし」
長いまつ毛の憂いのある眼差し。すっと通った鼻筋。
ジェルを使って逆立てた流行りのヘアスタイル。
美緒には高嶺の花だとわかっていた。
こんな男が自分に気安く声を掛けてくれるなんて信じられなかった。
「ええ?」
美緒は動揺を隠そうと、わざとはすっぱに言い、紙包みをゆびで開き覗いてみる。
「あ!すごい」
揚げたてのきつね色をしたコロッケが窮屈そうに並んでいた。