名前を教えてあげる。

「美緒に、スワロ使ったとっておきのネイルしてあげよ〜って楽しみにしてたのにぃ！」


ネイリストを目指して、パチンコ屋のサービスレディの仕事を辞めた紀香は、美緒よりずっと大げさな付けまつ毛の目を瞬かせて、頬を膨らませた。


「ごめーん、ノリ、怒らんといてえ♪」


美緒は歌うように言いながら、紀香を拝むようにした。

紀香といると、高校時代の親友・間柴真由子を思い出す。


子犬みたいにじゃれ合えて、友達というより仲の良い双子みたいだ。

笑いのツボも似てるし、どちらかが落ち込んでいる時も、共感したり、しっかりしなよ、と励ましてくれたり。
その辺りの呼吸もとても合う。


感情が衝突しそうになると、絶妙なタイミングで避けるところも一緒で、空気みたいに楽な関係。

ただ1つだけ、真由子と違うところは、紀香は陰が無くどこまでも朗らかだということだ。


島根県にある国分村という山深い場所を恵理奈と共に訪ねるという話をすると、紀香は眉間の辺りをぎゅっと顰めた。


「一度も会ったことないのに、いきなり、娘ですって言って信用してもらえるかあ？」