名前を教えてあげる。


数日後、園長先生からゆかりは病気になり、空気の良い田舎の施設に移ったと聞かされていたのに。


10年前の真実を教えてくれたのは、星野哲平だった。


ーーリスカやらかしたんだ。三田村に入ってからも何度かやってて常習者だった…で、最後のは俺が見つけた。

なんでか知らねえけど、男子トイレでコレ!


車の運転席で哲平は、一瞬ハンドルから手を離し、右手首を切る真似をした。


ーー血だらけで倒れてた。近付いたら
『哲平君、痛いよ、助けて』って腕掴まれたんだ。
まじ気色悪りぃ。血で汚れるから触るんじゃねえって、思い切り振り払ってやった。

なんでも、妻子持ちの担任の先公に騙されてヤりまくってたらしい。

死んでねえよ。精神病院行きだと…クソ教師は、関係否定してたらしい……
まあ、あんなキチ女、関わるもんじゃねえ…


(ヤダ!出て来ないでよ…)


久しぶりに哲平のことを思い出してしまい、美緒は慌てて頭を振った。


「ママあ、喉乾いたあ、ジュース」

「ジューチュ!」

「ママ、恵理奈も喉乾いた!」


大きな滑り台の付いたトランポリンに飽きた3人の子供達は、カフェにいる母親に飛び付いてきた。


「はいはい、ジュース買おうね。炭酸はダメだからね」


紀香は機嫌良く立ち上がるが、美緒は傍に置いたショルダーバッグから、水のペットボトルを取り出す。




< 338 / 459 >

この作品をシェア

pagetop