名前を教えてあげる。
お金を返さなければ、タケシは再び光太郎と美緒の前に現れるだろう。
50万もの大金をあっさり諦めるわけがない。
ダメでもともと…と思っていたのに。
『国分村で農業体験・農家に泊まりませんか?』
そんなキャッチコピーが、美緒の目に飛び込んできた。
それは、島根県国分村のホームページだった。
過疎が進む国分村では、夏の間、村おこしのイベントとして、一般人を家に泊め、田圃や畑の仕事を体験してもらう『農家ステイ』と銘打ったファームステイを実施しているという内容だった。
協力農家として並んでいた5人の氏名の中に、『国分五郎』の名前を見つけた美緒は胸が爆発しそうになった。
今更、死んだと思っていた父親が生きてると知っても現実感がなかった。
ただ、そのホームページは5年も前のものだった。
ーーでも、今、頼れるのは国分しかいない。
形振り構わず、お願いするしかない。
とりあえず、接触を取ってみよう……
[農家ステイをしてみたいのですが]
美緒が国分村にメールすると2日後に、
[今現在、イベントとしてはやっておりません。でも、興味がおありでしたら、国分村に起こしください。農家を紹介させて頂きます]
と返事が来た。
(自分が国分五郎の娘だということは、とりあえず内緒にした)