名前を教えてあげる。

・真夜中の諍い





まだ光太郎と知り合う前。


初めて、美緒の住む市営団地に白河紀香が子連れで泊まりに来た時、話してくれた。缶のピーチフィズで頬を少し赤く染めながら。


『ノリね、龍亜と一緒に高校の卒業式に出席したの。
あ、龍亜はノリのお腹の中だよ。

9月出産予定で、3月の時点でそれほどお腹も目立たなかったしね。

前ダンは1コ上で、同じ高校の先輩。

入籍してから、学校に妊娠を報告したんだけど、卒業するまで妊娠を公けにしないって約束で、退学にも停学にもならなかったよ。

でも、内緒になんて出来なくて皆に言っちゃったあ。

先生達もおめでとうって言ってくれたし。

前ダンとは高1の夏から付き合ってて、お互いの家に泊まったりしてから、妊娠が判った時、うちの親も向こうの親も孫が出来たってすっげー喜んでくれたんだ…』


へえ、と感心しつつも美緒にはとても信じられなかった。


紀香とは同い年なのに。比べてもしょうがないけれど、恵理奈を身籠った時、周りの大人たちは美緒が堕胎をするしかないと決めつけた。

美緒自身も諦めてしまっていた。


あの時、順が連れ出してくれなかったら、自分は母にならなかったと考えると、恵理奈に対して本当に申し訳ない気持ちになる。




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