名前を教えてあげる。
こんなに円満な夫婦の間に生まれていながら、紀香は元ヤンでダメ男好きなのだった。
「美緒、いつも運転手してくれてありがとう。ノリが男だったら美緒、ヨメにしたかったわ」
紀香は、後部座席から車に乗せてもらった礼をいった。彼女は、自分のことをノリと呼んだ。
「いいって〜電車じゃ大変だからさあ」
美緒は上機嫌で言う。
光太郎が婿入り道具のようにして持ってきた白い軽自動車は美緒の靴代わりだ。
光太郎かあまり運転が得意ではないせいで、80%くらい美緒のものになっていて、通勤や買い物に使っていた。
助手席のチャイルドシートに座る恵理奈は、寝違えてしまいそうなほど大きく窓側に頭を傾けてしまっていた。
遊び疲れた龍亜も、年子の弟そあらも母親の紀香にもたれるようにして眠っている。
小さな兄弟はつまらないことでよく喧嘩もするけれど、こんなふうにピタリとくっついている様子は本当に微笑ましかった。
美緒自身、兄弟姉妹がいれば天涯孤独にならずに済んだのに、と昔から思っていたから恵理奈を1人っ子にしたくはなかったけれど、この状況で光太郎の間に子供を作ることなんて、とても考えられなかった。