名前を教えてあげる。
「……なんなの、それ?」
信号が青に変わった。
「ショック受けないから…話して!」
美緒は深呼吸して、緩くアクセルを踏んだ。
見慣れた街並みの夕暮れ時。
胸がざわざわと波打っていた。
今まで生きてきて、人の携帯メールを読むやつなんて、最低だと思っていた。
でも、今夜それをしなければどうしても気が済まなかった。
隣の布団でいびきをかいて寝ている光太郎の寝顔を美緒は、じっと見つめた。
色白で童顔の光太郎は、目を瞑るとますます子供っぽくなる。
次々に若いアイドルと浮名を流すお笑い芸人に似ていた。
イケメンではないけれど、女を安心させるタイプだ。
(まったくもう、何考えてるんだが……こんなにお金に困っている時に…)
2歳も年上なのに、光太郎はまるで恵理奈より子供じみている…
(馬鹿な奴…死ねよ…)
美緒は溜め息を吐いた。
昼間の紀香の話を思い出す。
ーーこないだの金曜日ね、じいじの誕生日だったの。
それでお祝いで、皆でお寿司食べにいったのよ。○○町にある『泉寿司』。
美緒、知ってる?
美緒は首を振った。
あんな高そうな店、素通りが当たり前だ。
先週の金曜日、光太郎は職場で飲み会に参加したはずで、帰宅は午前0時を過ぎていた。