名前を教えてあげる。
しかもこんな非常事態に、女に奢って、1万円以上使うなんて……
美緒は明るく言ったけれど、お腹の中は煮えくり返っていた。
光太郎のiPhoneを充電器からそっと外し、暗証番号を打ち込んだ。
ドキドキした。
目の前で眠る光太郎がパチリと目を覚ましたら…と思うと指が震えた。
まずラインを見る。
短気なせいかメールは苦手で、通話派の光太郎なのに、友達のリストには、ずらりと友人達の名前やニックネームが並ぶ。
女の名前もいくつかある。
どれが怪しいのか全然わからない。
光太郎が起きたらどうしよう……
早くしなければと気が焦って、変なアイコンを押しそうになる。
しくじりそうな指をなだめ、トークのリストを見る。
そこには、美緒の名前が1番上にあるだけだった。
何もない方が良いのだけれど、これでは紀香のいう『清楚タイプの女』が何者なのかわからない。
SMSの方も見てみよう……
そう思った時。
「うう…ん。わかってる、やるよ…」
いきなり光太郎からとびだした寝言に、美緒は飛び上がりそうになった。
(ヤバイ…!)
慌てて、スマホを胸に抱えて隣室へ駆け出す。
(落ち着け、落ち着け……)
居間のテレビの前にペタンと座り込んで、捜査を再開した。