名前を教えてあげる。



「こ、光太郎〜……こいつとキスしたんだ…それに、なんなの?薔薇の花束って〜……」


昔は、タケシよりも遊び人だったらしい光太郎にとって、キスなんて挨拶程度のことに違いない。


しかし、酒を飲んで女と2人きりだったのだから、あわよくば、という気持ちがあったと思うと情けない。


「何この女……自分も結婚してるのに…気持ち悪い……」


また独り言を言った後、その下の光太郎の返信を読む。



[どういたしまして。
花束、喜んでくれて、俺も嬉しい。
こんなこと、婚約者にもしたことがない(笑)
彼女の事はもちろん大事だけれど。
けなげな貴女のことがほっておけくて。
キスだけっていうのは、寂しいけど(笑)
俺で良ければ今後も相談に乗るから。1人で悩まないで]




光太郎と付き合って半年過ぎた。
その間、光太郎がプレゼントしてくれたのはターコイズが入った銀の指輪だけ。

1万円もしない安物だけど、それはエンゲージリング代わりに美緒の左手薬指にはまっている。


(それにしても、いちいちキスしたことまでメールに書くなんて…)


なんとなく美緒は、この平井りかという女が、誰かに読まれることを想定してこのメールを書いている気がした。





< 350 / 459 >

この作品をシェア

pagetop