名前を教えてあげる。
「こ、光太郎〜……こいつとキスしたんだ…それに、なんなの?薔薇の花束って〜……」
昔は、タケシよりも遊び人だったらしい光太郎にとって、キスなんて挨拶程度のことに違いない。
しかし、酒を飲んで女と2人きりだったのだから、あわよくば、という気持ちがあったと思うと情けない。
「何この女……自分も結婚してるのに…気持ち悪い……」
また独り言を言った後、その下の光太郎の返信を読む。
[どういたしまして。
花束、喜んでくれて、俺も嬉しい。
こんなこと、婚約者にもしたことがない(笑)
彼女の事はもちろん大事だけれど。
けなげな貴女のことがほっておけくて。
キスだけっていうのは、寂しいけど(笑)
俺で良ければ今後も相談に乗るから。1人で悩まないで]
光太郎と付き合って半年過ぎた。
その間、光太郎がプレゼントしてくれたのはターコイズが入った銀の指輪だけ。
1万円もしない安物だけど、それはエンゲージリング代わりに美緒の左手薬指にはまっている。
(それにしても、いちいちキスしたことまでメールに書くなんて…)
なんとなく美緒は、この平井りかという女が、誰かに読まれることを想定してこのメールを書いている気がした。