名前を教えてあげる。


見上げると黒いスエット上下の光太郎が、すぐ後ろで仁王立ちしていた。


「てンめえ……何勝手に人のメール読んでんだ…?なんのつもりだよ…」


きいたこともないドスのきいた声に、美緒の腹の中がかあっと熱くなる。


「…寄越せ」


光太郎の言われるままに美緒は、iPhoneを差し出した。


「謝んねえのかあ?」


光太郎は座った目をして、美緒を威嚇する。


「……」


美緒は無言で俯いた。
浮気を疑ったからといって、人の携帯電話を盗み見ていいわけじゃない。それは分かっている。


でも、散財をして浮気寸前のことをしていた光太郎に、絶対に謝りたくなかった。


「土下座して謝れ。そしたら許すから」


美緒を睨みつけながら、光太郎は緑のカーペットの床を指差す。

美緒は頭を横に振った。


「謝れとかおかしい。何、女に寿司とか奢ってんの?お金ないんじゃないの?謝るのはそっちじゃないの?」


強気に謝罪を拒否した態度に、光太郎の顔面がカッと赤く染まった。


「ああっ?俺はなんもしてねえわ!
寿司ぐらいでグダグダ言うな!」


「寿司だけじゃないでしょ、薔薇プレゼントとか恥ずかしい!」


「……おン前よお!
自分が悪りいことしておいて、謝りたくねえとか、常識足りねえなあっ?
マジムカついた。
そんじゃ、俺が謝り方教えてやんぞ!おらあ!」


光太郎は、素早い動きで美緒の頭と肩を押さえつけ、力づくで床に沈めようとした。




< 352 / 459 >

この作品をシェア

pagetop