名前を教えてあげる。
見上げると黒いスエット上下の光太郎が、すぐ後ろで仁王立ちしていた。
「てンめえ……何勝手に人のメール読んでんだ…?なんのつもりだよ…」
きいたこともないドスのきいた声に、美緒の腹の中がかあっと熱くなる。
「…寄越せ」
光太郎の言われるままに美緒は、iPhoneを差し出した。
「謝んねえのかあ?」
光太郎は座った目をして、美緒を威嚇する。
「……」
美緒は無言で俯いた。
浮気を疑ったからといって、人の携帯電話を盗み見ていいわけじゃない。それは分かっている。
でも、散財をして浮気寸前のことをしていた光太郎に、絶対に謝りたくなかった。
「土下座して謝れ。そしたら許すから」
美緒を睨みつけながら、光太郎は緑のカーペットの床を指差す。
美緒は頭を横に振った。
「謝れとかおかしい。何、女に寿司とか奢ってんの?お金ないんじゃないの?謝るのはそっちじゃないの?」
強気に謝罪を拒否した態度に、光太郎の顔面がカッと赤く染まった。
「ああっ?俺はなんもしてねえわ!
寿司ぐらいでグダグダ言うな!」
「寿司だけじゃないでしょ、薔薇プレゼントとか恥ずかしい!」
「……おン前よお!
自分が悪りいことしておいて、謝りたくねえとか、常識足りねえなあっ?
マジムカついた。
そんじゃ、俺が謝り方教えてやんぞ!おらあ!」
光太郎は、素早い動きで美緒の頭と肩を押さえつけ、力づくで床に沈めようとした。