名前を教えてあげる。
光太郎の怒鳴り声と共に、恵理奈の身体がふっと美緒の手から抜けた。
「きゃあ…ママ!」
光太郎が恵理奈の腕を掴み、振り回した。小さな身体は簡単に吹っ飛んで、こたつの脇に倒れた。
ガツンと音がして、恵理奈がこたつの天板に頭をぶつけたのを見て、美緒は悲鳴をあげた。
「なんてことするの!こんな小さな子供に!最低!」
恵理奈も、うわあんと大声で泣き出した。
「恵理奈、大丈夫?どこぶつけた?見せて。たんこぶできちゃったかな?」
恵理奈を介抱する美緒の後ろで、光太郎はばつの悪い顔をして立っていた。
恵理奈がシクシク泣くのを美緒は、頭を撫でながら宥めた。
「ごめんね…こんなことになっちゃって…」
貧しくてもいい。笑顔が溢れる幸せな家庭が欲しいのに。
あまりにも程遠い。
なぜ手に入らないんだろう……
恵理奈の涙が移ったように美緒も嗚咽しながら、恵理奈の頭と背中をさすった。
「おらよ。俺、出ていくわ」
光太郎が美緒の足元に何かを放り投げ、宣言するようにいった。
「お前、島根の父親のとこ行ったら、恵理奈預けてこい。俺と結婚したいならよ」
「………」