名前を教えてあげる。
美緒の方からは一度、
[どこにいるの?]とラインをしたけれど、既読になっているのに3日経っても返信は来なかった。


もう、光太郎とはエンドマークかもなあ……


田舎の景色を眺めながら、美緒は溜め息を吐いた。


車両がひとつしかない電車。
たまに駅に止まるが、どの駅も小さなプラットホームと掘っ建て小屋みたいな待合室があるだけだ。

駅員らしき人もいない。

すっかり干からび、茶色くなった根っこだけが残る田んぼの合間ににポツリポツリとある里の家。

美緒の住む土地にはない横に広がった平屋の日本家屋だ。


そんな中をマッチ箱のような電車はゆっくりと乗客を目的地まで運ぶ。


「ママあ、あれ、なんていう池なの?」


「ええ?」


突如として現れた広々とした水面。

靴を脱ぎ、シートに膝をついて窓の景色を眺める恵理奈の質問に美緒は首をかしげた。


そういえば、島根県には大きな湖があった気がする。


「さあ…?よく知らないなあ」


髪の毛をうさぎの耳のように縛り、さくらんぼの髪飾りをつけた恵理奈の頭を撫でながら美緒は答えた。


国分村に無事到着することとか、どうやって五郎から金を借りようかとか。

そんなことばかり考えていて島根県について、なんの勉強もしていないことに今更気付いた。





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