名前を教えてあげる。
「ねえ、ママあ」
「ん?」
「セックスって、なあに?」
「へっ!」
いたいけな子供の口から発っせられたとんでもない言葉に美緒は、度肝を抜かれた。
慌てて周りを見回すが、老人達は耳が遠いのか、反応を示すものはいなかった。
いや、湖の事は聞こえたのだから、知らんぷりをしているのかもしれない。
「やだ、なんで知ってるの?そんな言葉?」
焦りながら、恵理奈の耳元に唇を近付けてヒソヒソと聞いた。
「こうちゃんがこないだ言ってたじゃない。ママはセックスが好きだって。テレビにでてくる人?」
美緒は、慌てて恵理奈の口を手のひらで覆った。
「ダメ!恵理奈。子供は言っちゃいけない言葉なの!こうちゃんみたいな悪い大人が使う言葉だから、もう二度と使わないで! 」
美緒がセックスという言葉を知ったのは三田村学園に入ってすぐだった。年上の子供達は、面白半分にそういう言葉を連呼するから。
「使うとこうちゃんみたいにお仕事お休みしちゃうの?じゃ、私、使わない!保育園、皆勤賞なんだもん」
恵理奈はくるりと身体の向きを変え、シートに座り直す。
「恵理奈、皆勤賞なんだ?」
知らなかった美緒は、自分のうかつさを恥じた。