名前を教えてあげる。
国分村に滞在するのは、1週間の予定だった。
保育園には親戚で不幸があり、葬式に出席する、と説明した。


「うん。田舎のおうちに行くから、保育園お休みしちゃって嫌だなあって、まゆみ先生に言ったら、お葬式だとお休みしたことにならないんだよって。
だから、良かったあ!」


恵理奈は嬉しそうにクマのキャラクターの靴下を履いた足をパタパタさせた。

お気に入りの靴下は、親指部分が穴が開いて肌色が見えている。

電車の床の履き古した小さな運動靴。
爪先は擦り切れ、白地がぞうきんみたいなグレーになっていた。


(恵理奈は我慢して履いていたのかな…)


そういえば、高速バスでも恵理奈は、ずっと靴を脱いだまま過ごしていた。


「靴、きつい?」


「…少し」


恵理奈は小さな声で答えた。
下を向き、遠慮がちに。


恵理奈がしっかり者なのをいいことにずっと放ったらかしていた。美緒は自分がつくづく情けなくなった。


「そっか。じゃ、どこかで新しい靴を買おうね。あと靴下も」


美緒は母親譲りの恵理奈の艶のある髪を撫でた。






国分村役場前という停留所でバスを降りた。
思った以上に随分と山里の村だった。




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