名前を教えてあげる。


ファームステイが近付くにつれ、母がどういう人物でどんないきさつで夫の五郎と別れてしまったのか聞いてみたい気持ちが膨らんで行くのは否めなかった。


ただ、美緒の祖母は、娘に先立たれたことで五郎を激しく憎んでいたのは事実だ。何かあったのは間違いない。

むやみには訊けない。なにもかも、五郎の様子次第だ。


メールでやり取りして、今回のファームステイの段取りをしてくれたこの倉橋という男に、軽トラで国分五郎の家まで送ってもらうことになった。


恵理奈を運転席側にして、助手席にぎゅうぎゅう詰めに2人座った。

のどかな晩秋の田園風景が広がる。


水深の浅い大きな川を真ん中した銀杏色の風景は、初めて来た場所のはずなのに、美緒はなぜか懐かしくてたまらなかった。


まばらに広い眉に、大きな二重瞼と無駄に長いまつ毛をした倉橋は陽気な男だった。
ベージュの作業着に白い手ぬぐいを首に巻き、メタボ気味なせいか少し歩くだけでふうふう言っている。


見た目は暑苦しいが、性格は人懐こく親切だった。ハンドルを握った途端、語り出した。

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