名前を教えてあげる。
中庭を抜け、母屋と離れを繋ぐ渡り廊下を横切り、裏庭へと歩を進める。
美緒は、ボストンバッグと紙袋を持って倉橋の後を追った。恵理奈も置いていかれまいと必死になって母に続く。
「おお、ここにいたか!」
倉橋が仁王立ちになった先に、黒っぽい服装の男が背中を丸めて蹲っていた。
「五郎さん、ここだったのかね。風呂沸かしてたんだな」
「おう」
倉橋の向こうにいる男は、竈に薪をくべていたが、美緒の姿に気付くと作業の手を止め、ゆっくりと立ち上がった。