名前を教えてあげる。
・国分五郎、そして近所の人々
白髪交じりの癖毛の髪を短かく刈り込み、8の字に垂れた眉と少し眠たげに見える目をした男は、太ももに両手をつき、深々と頭を下げた。
「ようこそ遠路はるばる国分村にいらっしゃいました……
大したお構いは出来ませんが、農家の暮らしを楽しんで下さい」
饒舌な倉橋と違い、ボソボソとした語り口。
(…あ……!)
顔を上げた男と視線があった瞬間、美緒の全身に鳥肌が立った。
ビー玉のように澄んだ茶色い瞳の男が初対面ではない気がした。
「あのっ…あの、これ、どうぞ」
美緒が紙袋を差し出すと、
「あ、どうも…ありがとうございます」
五郎はあっさりと紙袋を受け取った。
「いえ、どういたしまして…」
田中みどりが有名な俳優に似ている、と言っていたことを美緒は思い出していた。
「野口さん、ここの家は五右衛門風呂ですよ。風呂の蓋を沈めて入るようにして下さいね。都会のもんは怖がりますが。お嬢ちゃん、大丈夫だからね」
倉橋が身を屈め、恵理奈に笑いかけた。
倉橋は勤務中の為、一旦、役場に戻った。
「今日からこちらで寝起きして頂きます」
五郎は言い、美緒と恵理奈は離れの二階に案内された。
離れの中は、木の香りに満ちていた。