名前を教えてあげる。
1階の半分がトラクターの車庫になっており、半分は板張りの物置きで大ザルやら、農機具の類が置かれていた。
ギシギシいう、急な階段を五郎の尻を追うようにして上がる。
恵理奈は手も使って、ジャングルジムを登るようにして母親に続く。
既に雨戸の閉まった二階はひんやりとして真っ暗だった。
五郎がパチリと電灯を灯すと、部屋の全貌が明らかになる。
二間続きの和室は1部屋が8畳ほどの広さがあり、美緒と恵理奈の2人だけで使うにはもったいないくらいだ。
奥の南の部屋には既に二組の布団が敷いてあった。
家具は、衝立式の衣桁(いこう・和風ハンガーラック)があるだけだ。
畳はさらりとして踏みごこちが良く、掃除がゆき届いているがわかった。
「この部屋使って下さい。トイレは、母屋の隣にあります。食事用意出来たらお呼びします……それまで身体、休めて下さい」
五郎は背を丸め、愛想無く言う。そして、なぜか美緒の顔をちゃんと見ようとしなかった。
だが、不快感は全くなかった。
五郎がとてもシャイで思慮深い人柄だというのは、彼のちょっとした仕草から滲み出ていたから。