名前を教えてあげる。
30歳半ばくらいの飾らない感じの姉妹の母親は、人見知りしない性格のようで人懐こく言う。
姉妹と同じく、おかっぱで前髪はパッツン。自分で切っているのは明らかだった。
雅子の緩い感じに美緒は、好感を持ったが『よろず屋』という意味が分からず、すぐに返事が出来なかった。
店の名前なのかもしれない、と思いつき、
「あ、よろしくお願いします」
とりあえず、ぺこりと頭を下げた。
「あの…雅子さん」
台所で、料理の盛り付けの手伝いをしながら切り出した。
あまりの衝撃に誰かに言わずにいられなかった。
「どうしたの?美緒ちゃん」
「…ここ、ぼっとん便所なんですね〜…」
さっき、トイレに行った美緒は、衝撃を受けた。汲み取り式だったのだ。
そんなものに遭遇したのは、人生で初めてで、ここに来たことを強烈に後悔した。
便器は洋式で板張りの床と壁は、新しい感じだったけれど、恐る恐る便器の暗い穴を覗いてしまった美緒は、中の汚物と刺激臭に吐きそうになってしまった。
恵理奈もすごく怖がり、たかがおしっこに大騒ぎだった。