名前を教えてあげる。
「あ、うちもよ。ここらはみんなそうよ。下水道なんか来てないから、飲み水は井戸からだし。
街場の人は抵抗あるみたいだね。
最初はアレだけどすぐに慣れるよ。鼻つまんて下見ないようにするの。
クスリ捲くと臭い消えるけん、明日うちにあるの持って来てあげるわ。恵理奈ちゃんだったら、草っぱらの見えないとこでやっちゃえ」
菜箸で揚げ物を次々に取り上げながら雅子はなぜか楽しそうに言った。
「慣れるしかないかあ〜…」
郷に入れば郷に従え。
1週間の辛抱だ…
美緒は自分に言い聞かせた。
生理でないのが救いだった。
「恵理奈ちゃん、脚早いが!全然捕まらんわ〜!」
友達が増えた子供達は大はしゃぎで、きゃっきゃと、広い座敷の家の中を走り回る。
「これ!だめだがね!加奈!由美!
お前達がやると恵理奈ちゃんも真似するがね!」
子供達を雅子は、配膳をしながら大声で叱る。
恵理奈は、ぱっと走るのをやめるが、姉妹はなかなかやめず、雅子は溜め息を吐いた。
「まあったく!恵理奈ちゃんはいい子だわ。都会の子は行儀がいいね。
うちなんか旦那は農協と畑仕事、爺ちゃんは村役場、私は店と畑の手伝いもしとるけん、子供なんてほったらかしだもの。
どんどん言うこときかなくなってきたわ。
せめて、お姑さんが生きてたら良かったんだけど、10年も前に心臓病でポックリと逝かれてしまったけんなあ……」