名前を教えてあげる。
飯粒を口に放り込んで、雅子は愚痴をこぼす。
「長患いして、わしらに迷惑を掛けちゃいけんと思ったんだろな。本当、倒れてからあっと言う間に旅立ったな」
倉橋が視線を下に落として言った。自分を慰めるように。
「まあ、おふくろらしいよな!」
真面目そうな眼鏡を掛けた姉妹の父親がビールを啜ったあと、吹っ切るようにいった。
五郎はといえば、ニュースが気になるのか、会話には加わらず背を丸め、皆の顔と横にある42型のテレビを交互に眺めていた。
ニュースでは、海外の旅客機が墜落してしまった、と報道していた。
五郎は時々箸を伸ばしては、自分の取り皿に少量だけおかずを盛る。
大きな丸いちゃぶ台には、これでもかと里のご馳走が所狭しと並んでいた。
里芋と人参の煮物や、蓮根の挟み揚げ。ふきと油揚げの煮びたし。
ほうれん草のキノコの炒めもの。鳥の唐揚げ。
どれも大皿に盛られ、菜箸で自分の小皿に取るシステムだ。
どれもこれも、味が芯まで染みていて、それでいて食材の味も生きている。
都会では、これらのものはなかなか食べられない。
美味しいこの料理は、雅子がすべて拵えたものだという。