名前を教えてあげる。


こんなに手を掛けたご馳走があるのに、卓のメインディッシュは平皿に盛られたマグロの赤身の刺身なのだった。


姉妹達は奪うようにして、自分の小皿にマグロを並べる。


「海が遠いでしょ。海のものはご馳走なのよ。大きなスーパーは遠いから移動販売で買うことが多いんだけど、高くてね。

私は隣村の出身で小さな頃から山のものばかり食べていたけん、刺身なんてあまり好きじゃないんだけど、子供達は大好きなの。

美緒ちゃん、お口に合わなかったらごめんね」


初対面なのに、ちゃん付て呼ばれ、美緒はびっくりしたけれど、悪い気はしなかった。


「いいえ、すっごく美味しいです。この煮浸しなんて最高に美味しい!

和食って難しいじゃないですか。この味付け、薄味なのに風味がすごく良くって。どうやるんですか?」


「そんな褒めてくれて!あはは!
今度、作り方教えてあげるね」


「ほう。雅子も人に料理を教えるくらいになったか。死んだ婆さんも天国で喜んでるだろうな」


女同士の弾んだ会話に、お喋りな倉橋が口を挟む。


「ママあ、これ何?」


恵理奈が蕗(ふき)の煮物を箸で指していう。

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