名前を教えてあげる。
「これは蕗だよ。ここの裏山で国分のおじちゃんが採ったんだよ。美味しいから食べてごらん」
恵理奈の隣に座っていた姉妹の父親で雅子の夫、伸明が大きな身体に合わない優しい声でいい、恵理奈の皿に一つだけ蕗を乗せた。
「まあ、あんた、1つだけなんてせこいことしなさんな!恵理奈ちゃん、たくさん食べなさい!」
向かいに座った雅子が唾を飛ばさんばかりの勢いでいうと、伸明は片肘を落とし、ずっこけた真似をしてみせた。
「俺は恵理奈ちゃんの口に合わなかったらいけん、と思って、少しにしたんだわ。せこいとかお前に言われると本当、ショックだわ〜」
伸明は、肩を震わせオーバーに嘆いてみせる。朴訥とした外見だけれど、なかなかユーモアのある男だった。
「あはは、ノブさんごめんねっ」
「いいえ!どういたしまして!」
夫婦漫才のようなやり取りに皆が笑った。
美緒も笑っていたけれど、だんだんに悲しくなってきた。
今の美緒には、倉橋夫婦が眩しかった。
妻も夫も、平凡な容姿に地味な服装。雅子など化粧気もなく、ショートカットの髪は襟足が跳ねていた。伸明の伸びたスポーツ刈りの頭は、てっぺんが薄くなっていた。