名前を教えてあげる。
午後9時。
恵理奈は布団に入ると、3分も立たないうちに寝息を立て始めた。
田舎の夜は早い。
倉橋達は8時過ぎに、帰っていった。
片付けものは雅子と五郎がやってくれて、その間、美緒と恵理奈は風呂に入った。
便所も風呂も住居から独立していて、サンダルを履いて外に出なくてはならないから、夜が更けないうちに済ませておいたほうが良い。
五右衛門風呂も初めてだった。
脱衣所は裸電球ひとつだし、木の引き戸は鍵なんか付いてないし、驚くことずくめだった。
それでも、恵理奈と2人、鉄の大鍋みたいな湯船に首まで浸かり、灯り取りの為に付けられたガラス窓から、満点の星空を見た時、報われた気持ちになり、
やっぱりここへきて良かった…と美緒は思った。
この世にあんなに星があるなんて知らなかった……
まるで宝物を見つけたような気がした。
離れの二階には小さなテレビがあった。放映されている番組は限られていたが、美緒はローカル放送らしい旅番組を選んだ。
中年の女性タレント2人組が宿の豪華な料理に、オーバーな嬌声をあげている。
たいして面白くないけれど、テレビの音がないと静か過ぎる。
「…そうだ、ノリにラインしよっ」