名前を教えてあげる。
夕方ここに着いてから、バッグの中にいれたままで、1度もスマホを見なかった。
普段の美緒は完全にスマホ中毒で、バイトの時でさえ肌身離さないのに。
「げっ…」
スマホを見た美緒はギクリとした。
堀田タケシからラインが届いていた。
恐る恐る指を滑らす。
[お疲れさん。元気?]
[例の期限が近付いてるけど、大丈夫?]
(……はああ)
現実を突き付けられ、美緒はうんざりとした。
[メド立ってません]
美緒の素っ気ない返信に、タケシからすぐに反応があった。
[おおごとに考えるなよ。
美緒ちゃんにできる事をすればいいんだよ?]
[とりあえず、来週の平日の昼、時間作れないか?]
うさぎがウインクしながら、Vサインしている陽気なスタンプ。
…文章と全っ然合ってない…
美緒は思う。
タケシは手八丁口八丁の男だ。
美緒なんか丸め込むのは、赤子の手を捻るようなものだろう。
(うっかり逢う約束をしたら最後、どこに連れ込まれてしまうかわかったもんじゃない…)
美緒はタケシをブロックした後、テレビを消した。
騒がしい雑音がなくなると、近くを流れる大きな川の流れる音だけになった。