名前を教えてあげる。
それは、サラサラサラ…と絶え間なく続く。
耳を済まし、しばらく聞いていると、川の流れは一定ではないことが分かった。
忍びやかな物音を含んでいる。
川上から流されてきた木の枝が石の橋桁にぶつかり、ポキンと折れてしまう様子。渦になった流れが岩に当たり、水辺の葦をさわさわ揺らす様子。
川は眠らない。
朝だろうと夜だろうと。春だろうと秋だろうと。
方々から集めた山水を海へと流し続ける。
それは、絶え間ない自然の力だ。
この世に人類が誕生して以来、この川は、様々なリズムを奏でているのだ。
身体は疲れているはずなのに、眠れそうもなくて、美緒は布団から起き出した。
五郎にきちんとお礼を言っていないのを思い出して、昼間着ていた薄手の白いダウンジャケットをパジャマの上に羽織り、急な階段を降りて、外へ出た。
外の空気はひんやりしていて、清々しい。明らかに、都会とは違う。
風呂から見た時よりも、さらに星は数を増していた。
ダイヤモンドを散りばめたような空。
「ムチャすごい….」
言葉と共に白い息を吐いた。
「こんな星を順は見たこと、あるのかな…?」