名前を教えてあげる。
・夜更けの語らい〜父と母の出逢い
(機嫌が悪いのかな……?
やっぱり歓迎されてなかったんだ、きっと。
倉橋さんの手前、断りきれなくて、私達を受け入れることになってしまったのかも…)
美緒は立ったまま俯いた。
「…どうして、ここが分かったんだ?」
五郎の固い声に、美緒は顔を上げた。
全身がカッと熱くなり、心臓は早鐘を打ち始めた。
五郎は初めから、美緒が自分の娘だと分かっていたのだ。
「……三田村学園に…いた先生に聞きました…」
それは守秘義務違反だ。
それくらい美緒にも分かる。
「そうか…」
五郎は自分の湯呑を両手で包み込むように持ったまま、目を伏せた。
文句を言われるのかもしれない、と思い、美緒は拳を握って俯いた。
「ごめんなさい…」
…うっさいなあ、何よ、このおっさん。
はいはい。申し訳ありませんね!
態度では済まなそうにして、心の中でベロを出す。
それはカラオケ店で身につけた習性だった。
高飛車で理不尽なクレームを真に受けていたら、こちらの精神がおかしくなってしまう。
「よく……探しにきてくれたなあ…」
震える声に美緒はハッとして顔を上げた。