名前を教えてあげる。
「お前さんの顔ひと目見たら、すぐに分かったよお…紗江に瓜二つだあ…
あの赤ん坊がこんなに大きくなったのか……」
八の字眉毛の下の瞳からポロリと涙が零れるのを見た時、美緒の膝ががくりと折れた。
「…お」
喉の奥から呻き声が漏れ、無意識のうちに駆け出していた。
「…じさん?私のお父さんなの?…本当のお父さん?」
五郎の前に跪いて、顔を覗き込んだ。
「私が……
小学生の時に逢いに来てくれたの?
…本当?」
声が上ずる。
五郎は胡座をかいたまま、手の中の湯呑に語りかけるように言った。
「…ああ。そうさ。
婆さんが死んで、施設に預けられたってきいてな。逢いに行ったけどダメだったよ……
影からでも姿見せてくれって頼んだんだけどなあ…」
五郎は、しゅん、と鼻をすすったあと、
「紗江に…そっくりだ…」
と呟きながら、手の甲で頬の涙を拭った。
その姿を見て、美緒に勇気が湧く。
24年間生きてきて、今までやりたくてもやれなかったこと。
「お父さん!」
茶色の優しい瞳を持つ男に、美緒は勢いよく抱き付いた。保育園のお迎えの時、恵理奈が自分に飛び付いてくるように。
「よく逢いにきてくれたなあ……
苦労したんだろう…女手一つで子供育てて…可哀想だったなあ」
しゃがれた声で五郎はむせび泣く。皺くちゃな手で美緒の背中を撫で続けた。