名前を教えてあげる。
山と川と空の下で
朝、起きると、恵理奈の布団はもぬけの殻だった。
美緒は急いでフード付きのトレーナーとGパンに着替え、布団を畳んで隅に寄せ、次に雨戸を開けた。
戸袋に何枚も木の板を納める作業は結構骨が折れたけれど苦ではなかった。
網戸もガラス窓もないから、眩しい朝日の下、剥き出しの田舎の風景が目の前に広がる。田んぼと山。川と橋。
「うわあ、気持ちいい…」
いつもスマホの小さな画面ばかり見ている目に、緑を基調とした優しい色合いはじんわりと染みる。
壁に取り付けれた時計の針は、7時半を指していた。
「気持ちいいなあ」
清々しい空気を胸いっぱいに吸い込んだ時。
ニャア、という小さな声が聞こえた。
二階からその声を探すとすぐに見つかった。
離れの前に停めてある軽トラの下にミケ猫が潜んでいた。
猫がもう一度、ニャア、と鳴くと、どこからかキジトラの猫が現れ、ミケ猫の横から軽トラの下に潜り込んだ。
(可愛い〜慣れてるのかな?)
ニャア、と美緒が猫の鳴き真似をしたのに、猫は見えなくなってしまった。
なんだあ、つまらない、と独り言を言って、母屋へと急いだ。