名前を教えてあげる。
そういえば、自分達の洗濯物もビニール袋に入れたままだ。


(図々しいかな…)


一瞬躊躇ったけれど、離れから汚れ物を持ってきて、五郎のものと一緒に洗ってしまうことにした。
その方が経済的だ。


籠の中の緑色のチェックのトランクスやランニングシャツを手にしても、美緒はなんの抵抗も感じなかった。むしろ、世話を出来ることが嬉しかった。


父親の身体に縋り付き、体温を感じることは、順や哲平や光太郎に抱かれるのとは全然違った。
懐かしく、切なく、安心感があった。

取り戻せるなら、小さな子供時代に返って思う存分、五郎に甘えてみたかった。

五郎は果てしなく優しい男だ、ということが分かったから。


(もしも、お母さんが亡くなったあと、父子家庭で育っていたら、パパ大好きっ娘になっていたかも…)


そんなことを考えながら、旧式の全自動洗濯機のランプが点滅する様子を眺めていた。


「ママあ、これからどうするの?」


縁側で足をパタパタさせながら、恵理奈が訊いた。

ここには恵理奈の好きな本は一冊もない。
あるのは、新聞と『農業のヒカリ』という定期購読しているらしい雑誌だけだ。





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