名前を教えてあげる。


伸び切った前髪から覗く、おどおどした目が幼心にも不気味だった。


学校が終わっても、ゆかりが制服を着ていたのは、手持ちの服がすくなかったせいだ。


休みの日は、伸びたTシャツに、太腿のところがぶかぶかした変な形のGパンを履くゆかりは、同年代の子達から馬鹿にされ、いつも『チビたち』とばかり遊んでいた。


美緒もたまに遊んでもらった。


ゆかりは優しい人だったけれど、爪を噛む癖があり、ボロボロの爪が汚ならしかった。


それに左手首にいつも白いサポーターを嵌めていて、どうしたの?と訊くと、人が変わったみたいに物凄い目付きで睨まれた。



ゆかりの『こうのとりの話』が嘘だと分かったのは、高3の秋だった。


美緒は17歳。


もう数ヶ月で卒業、という頃で、県内の温泉ホテルの就職試験を受けた直後だった。


もちろん、ゆかりはその時、もうとっくに養護施設『三田村学園』を卒園していた。その先の行方は知らない。


結婚していないのに…


こうのとりは、美緒のお腹の中に赤ちゃんを連れてきてしまったんだ。


それが分かったのは、お腹の膨らみが目立ち始めたからで、もう人工妊娠中絶は無理だった。



三田村学園は、大騒ぎになった。






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