名前を教えてあげる。
カレーを食べた夜、美緒は食器を洗ったあと、恵理奈に話すことにした。
五郎が風呂に入っている間に。
「恵理奈、聞いて」
「なに?」
恵理奈は卓袱台の上に広げた小学生向け雑誌を前に、少しうるさそうに眉を顰めた。大好きな漫画が読んでいるところだった。
「大事な話なんだ。よく聴いて」
「大事な話?もうおうちに帰るの?」
「ううん。そんなことじゃないよ。
……あのね、本当は五郎さんはね、ママのお父さんなの。
ママが小さな頃、事情があって離れ離れになったんだけど、偶然にインターネットで見つけたの。だからここに来たの。お父さんに会ってみたかったんだ」
「えっ…」
恵理奈は、ゆっくりと顔を上げ目を丸くした。
「それは、どういう意味なの?ママ」
「だ、か、ら。五郎さんは恵理奈の血の繋がった本当のおじいちゃんてこと!」
「……」
少しの間、ぽかんとしていたけれど、恵理奈の瞳がだんだんに輝き出す。
「えっ、えっ、じゃ…これからもここにお泊まりしに来てもいいってこと?
由美ちゃん加奈ちゃんと遊べるってこと?ヤギさんのミルク飲めるってこと?
ミケとトラ抱っこ出来るってこと?」
興奮気味の恵理奈に、美緒がそうだよ、と答えると、恵理奈はきゃあ!と叫んで、卓袱台の周りをクルクル走り始め、最後には「きゃほー」と隣の部屋に敷いてあった五郎の布団の上にダイブした。