名前を教えてあげる。


「恵理奈ん!ダメだよ!ぐじゃぐじゃになっちゃうでしょ!」


親友の紀香の呼び方で、たしなめながら、こんなふうに子供らしくいたずらをする姿を見て、なんだか美緒は嬉しくなった。




翌日。五郎の家で餅つきが行われた。
土曜日で、雅子の夫・伸明も倉橋も仕事が休みだったから、倉橋一家も総出でやってきた。


「年末になると、お節作りや掃除で忙しいけん、今のうちに作っておいて冷凍しておくのよ」


白い割烹着に身を包み、頭にビニールキャップをした雅子が言った。

伸明は、大きな身体の割によく動く男で、手際よく裏にある倉から杵と臼を運んできて土間に設置する。


二升分の餅は、倉橋の家の餅つき機でだいたい蒸しあがっていたものを杵に移した。


柔らかく湯気を立てた餅は、このままでも充分なはずなのに、わざわざこんな面倒なことをするのは、これがイベントだからだ。

ここにいる皆は一銭の得にもならないのに、休日を使って都会から来た美緒と恵理奈を楽しませようとしてくれている。


客人をこんなふうにもてなすのが、国分村流なのだ。



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