名前を教えてあげる。
嫌いというわけではないけれど、スーパーで売っている個包装された餅は結構高い。
お正月に気まぐれに買っても、焼いて食べるばかりで、一度も雑煮を作ったことがなかった。
「6歳の子供がいるのに、ちょっと恥ずかしいよね…これじゃ、恵理奈が恥かいちゃうよね…お母さんがこんなんじゃ」
美緒がもじもじしながら言うと、
「だあい丈夫!」
雅子が肘で美緒を突ついた。
「あ、ああ〜!」
いきなりだったので、手に丸めた餅を持ったまま、美緒はよろけてしまった。
「ごめん、ごめん。力入り過ぎちゃった。今の若い人は多分そんなもんよ。
気にせんでいいが!美緒ちゃんさえよければ、私が雑煮の作り方教えてやるけん。田舎もんのやり方で良ければ」
「ありがとう。雅子ちゃん…」
雅子には悪いけれど、垢抜けない容姿の彼女を美緒は最初、少し見下していた。
それなのに、雅子はアカの他人の自分をこんなに可愛がってくれる。
国分村にいて自然の中で暮らしていると、今まで大事だと思っていたことや、拘っていたことが、実はどうでもいいことなんだ、と気付かされる。
価値観が、少しずつ変わっていく。