名前を教えてあげる。
風呂を沸かすために、五郎がかまどにくべた薪が燃える臭いを美緒はもう、クサイ、とは感じない。

切なくて懐かしい匂いだ、と思う。


(これから、国分村を思い出す為に、この臭いを思い出すんだろうな…)


「ああっ、由美、加奈、恵理奈!あんた達、粉つけ過ぎだがあ!

……って、エエエッ⁈」


雅子の叫び声で美緒は、子供達の方へ目をやった。


「わっ、やだ!」

どこをどうやったらこうなるのか、揃いも揃って、3人の子供達の可愛い鼻の頭に、白い粉で丸く印がついていた。


「あんたら、餅に顔近づけ過ぎなんだよお!」


雅子と美緒が一斉に笑い出し、白い粉がふわっと舞った。






田舎暮らしは新鮮なことばかりで美緒は、ここに来てからというもの、夢を見ているようだった。


3日目も良い天気だった。
美緒は五郎が縁側の雨戸を開けるゴロゴロという音で目が覚めた。

障子から透ける陽光で、今日も清々しい朝だと知る。

農業を生業とする五郎の朝はとても早い。
毎朝5時に起きる、という。

そしてNHKのニュース番組の音声を聞きながら、朝ご飯の支度をする。
僻地なので、新聞は昼前にやっと届くのだ。



< 405 / 459 >

この作品をシェア

pagetop