名前を教えてあげる。
「ホントありがとう、雅子ちゃん……気にしていてくれて」
雅子の横に腰掛けた美緒は、新品の赤いスニーカーで嬉しそうに庭中をスキップする恵理奈を眺めた。
美緒がお金を渡そうとしても、雅子は頑として受け取らなかった。
「プレゼントさせて。高いものじゃないから」と言って首を振って。
「せっかく仲良くなったのに、あさって美緒ちゃん達帰ってしまうなんて…切ないなあ。
最初は『洒落た都会もんが来たなあ、私とは合わんかもしれん、でも、五郎さんのお客さんだから、世話せんといけんしな〜』なんて思っとったけど。でも、美緒ちゃん、素直だし、甘えてくれるし。なんか段々、私の妹みたいな気がして。私には兄しかおらんけん、嬉しくてね…」
美緒の淹れた茶を啜りながら、雅子は淋しそうな顔をした。
「国分村は年寄りばっかりだけん、美緒ちゃんいなかったら、つまらなくなるわ…」
雅子の目と鼻が赤くなり、語尾が震える。
それを見て、美緒も胸が詰まった。
「やだ、雅子ちゃん…そんなこと言わないで。悲しくなるじゃん」
「そだね…馬鹿だわ私。
ノブさんにもよく言われるの。雅子は涙もろ過ぎるって。こないだなんて、ドラマの馬の出産シーンで泣いちゃって。
すごく難産だったけん」