名前を教えてあげる。
手のひらで涙を拭った後、雅子は吹っ切るように大きな声を張り上げた。


「恵理奈!はき心地どう?キツくないか?」

「うん!」


雅子は、自分の娘のように恵理奈を呼び捨てで呼んだ。


「おばちゃん、ありがとう!これ、すごく可愛い!由美ちゃんと加奈ちゃんに早く見せたい!何時頃帰ってくるの?」

「あ〜今日、何時間授業だったかね?もうしばらくしたら、スクールバスが来ると思うが」


2人の会話を聴きながら、美緒は昨夜の出来事をふと思い出して、心が重くなった。



ーーー恵理奈が寝付いた後。
美緒は布団を抜け出し、居間でテレビを見る五郎の横に座った。

ニュース番組のキャスターは、若者グループが浮浪者を襲った卑劣な事件を伝えていた。


「ひどいなあ」


五郎がぼそりと言った。いつものパジャマに毛糸のちゃんちゃんこを着ていた姿で。


「うん。馬鹿な人達だね」


五郎が目の前に置いてくれたみかんを手に取って、美緒は答えた。

湿った髪が少し冷たく感じる夜。
しばらく、テレビの音声だけが間を繋ぐ。


五郎は倉橋と違い、口数の多い男ではない。
でも、それは決して気詰まりなことではない。いつもなら心地良さすら感じる。

でも、今夜は違う。

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