名前を教えてあげる。
やっと会えた生き別れの娘、美緒の目的が実は金だと知り、裏切られた気持ちになっているのが手に取るように分かった。
「はあああ〜!恵理奈は本当、偉いが!ね。美緒ちゃん!」
いきなり、ぽんと雅子に肩を叩かれ、美緒ははっとした。
「えっ....!なになに、聞いてなかった…なんの話?」
目をぱちぱちさせながら、雅子と恵理奈を交互に見る。
「恵理奈、大人になったらお医者さまになるんだって〜偉いが〜」
雅子に頭を撫でられ、恵理奈は元気良く言った。
「うん、わたし、それで、こうちゃんの腰、治してあげるの。そしたら、毎日ちゃんとお仕事行けるもん!」
「ちょっ、ちょっと…恵理奈、そんな恥ずかしいこと、言わないででよ…」
「気にしなさんなあ。あんた、子持ちでも男がほっとかんだろ?可愛らしいもん。引く手あまただよね」
雅子は朗らかに言った後、菓子鉢の煎餅に手を伸ばした。
「あれ…?」
橋の向こう側からタクシーが走ってくるのが見え、美緒と雅子は、同時に声を発した。
この辺でタクシーなんて滅多に見かけないから、とても目立った。
橋を渡った後、タクシーは速度を落とした。進路を決めかねるように。
「何かねえ?」
スラックスに花柄のエプロンを着けた雅子は目の上に手をかざして、立ち上がった。
「なんだろ?ママ。見てくるね」
恵理奈が生垣の外へ走って出た。