名前を教えてあげる。
「いや、私は…結婚なんて……」
初対面なのに、雅子に手をブンブン振り回されながら、みどりは真っ赤になる。
昔から、この手の話は苦手なのだ。
そこは、変わってない…
美緒はくすりと笑った。
由美と加奈が乗るスクールバスが到着する時間が近付き、雅子は帰り支度を始めた。
「ママ、由美ちゃんと加奈ちゃんに新しい靴見せたい!一緒に行ってもいい?」
美緒の膝に両手を置いて、足踏みするように言う。
「ダメだよ、雅子ちゃんは忙しいんだからあ」
「いいがね、店なんてどうせ暇だし。3人、庭で遊ばせておくけん。恵理奈、おやつ、チョコレートアイスあるけん、仲良しで食べな」
「わあい、アイス食べたい!」
恵理奈はぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。
「え〜悪いね…」
雅子の言葉に甘え、恵理奈を連れて行ってもらうことにした。
恵理奈にとって、みどりは馴染みのない人間だ。今は挨拶程度でいい。
仲良し3人組はもうすぐ解散する運命なのだから。
美緒はみどりを家の中に招き入れた。
「はい、お茶どうぞ…」
「ありがと。国分村って思っていた以上に田舎ね。田んぼと畑以外何もない」
卓袱台に正座して、茶をひと口啜った後、みどりは「美味しい」と呟いた。
ニットキャップを取った頭は、ベリーショートに刈られていた。