名前を教えてあげる。
「良くなかったの……?まさか癌が再発したとか…?」
美緒が手にした黄色のマグカップ。五郎が美緒の為にと昨日買ってきてくれたもの。
その中の液体が小さな波を立てる。
わずかに震え出した美緒の指先に気付き、みどりは「ああ、そんなことじゃないわよ。そっちの方は大丈夫だった」と笑顔を見せた。
「中里順君に会ったの。診察室で。実習ですって」
「……えっ!」
順の名前を久しぶりに聴き、鳩尾の辺りに炎が投げ込まれたかのように、美緒の全身が熱くなった。
「順に…会ったの?みどりちゃん…本当に?うそ…順に……」
尋常でないくらい鼓動が高鳴る。落ち着こうと、静かに深呼吸する。
懐かしさ。愛しさ。恋しさ。
そして、悔やみ切れない想い。
色々な感情が一気に押し寄せてきて、胸の中で大きな渦を巻く。