名前を教えてあげる。
19歳の春⑵・愛を失う日
【19歳 春】
楽しかったはずのスノーボードなのに、その帰りの車中は、あまりいい雰囲気ではなかった。
せっかくここまで着たのだから、帰り掛けにアウトレットに寄ろう、という哲平の誘いを「いかない。早く帰りたい」と美緒が断ったから。
美緒の言い方がストレート過ぎて、哲平はあからさまに不機嫌になってしまった。
でも、それをフォローする余裕はなかった。
順からのメールが全く来ない。
朝から何度か電話しているのに、留守電になってしまう。
こんなことは今までなかった。
何か良くないことが起こってしまったのかもしれない。
(大丈夫だとメールにあったのは嘘で、また高熱が出て寝込んでいるのかも……
それとも、ウルばばに預けてた恵理奈に何かあって病院に行ってるとか…)
良くない考えばかりが浮かんでしまう。
それなのに、高速道路では、トレーラーが他の車を巻き込んで横転するという大きな事故が発生して、あれよあれよという間に大渋滞に巻き込まれてしまった。
助手席で爪を噛んで、イライラしながら、変わらない景色を見ていた。
「こんなことなら、さっき降りてアウトレット行きゃ良かったなあ…トイレ大丈夫か?」
哲平が紫煙を窓の外に吐きながら訊く。
美緒はすぐに答えなかった。