名前を教えてあげる。
「ただいま…」
引き戸を開けて、6畳の和室に足を踏み入れると、中はポツンと丸ローテーブルがあるだけで、小ざっぱりと片付けられていた。
隣の部屋のパソコンデスクの上に、いつも順が使っている白いノートパソコンが閉じて置かれていた。
「あ、もしかして!」
閃いて押し入れの襖を開けてみる。
もちろん順の姿はなかった。
「いるわけないよな…かくれんぼなんてするわけないし…」
陽が翳り始めた部屋で、美緒が呆然と呟いた時。
「……おかえり」
順の声に振り向くと、ノルディック柄のセーターを着た順が佇んでいた。
「あ、順、いたんだ!びっくりしちゃった、どこにいたの?」
「…さっきからいたよ」
フッと順は力なく笑った。
「顔、青白いね…まだ具合悪いの?メールしても電話しても出ないし…大丈夫?」
美緒が手を伸ばして順のおでこに触れようとすると、順はスッと顔を背け、その手を避けた。
拒絶されてしまったことに、美緒は呆然した。
明らかに態度がおかしかった。
「……順?」
「…美緒」
順は顔を上げ、美緒を漆黒の目で真っ直ぐに見た。
「…昨日の夜…星野哲平から電話があったよ」
「………えっ?」