名前を教えてあげる。
美緒の愛情を得られなかったことで、哲平は自分の心に住む悪魔の指示に従ったのだ。
「…美緒は、俺じゃダメなの…?」
やっと言葉を発した後、順の瞳から涙の雫がポロリと流れ落ちた。
……順が泣いた。
それを見た瞬間、美緒の両膝はがくりと折れ、床に付いた。
「ごめんなさい……」
両手で顔を覆い、呟くように言った。
今更、今更、今更。
なぜ、気が付かなかった…!
人はそれを裏切りと呼ぶことに。
他の男と肉体関係を持つ。
それがどんなに、最愛の男を傷付け、苦しめてしまうことか。
取り返しのつかない、万死に値する行為だということに。
無理矢理されたわけじゃない。
哲平を責める資格なんかありはしない。
「いつから付き合ってた…?」
順は美緒を見下ろし、穏やかな声で訊いた。
罵倒してくれた方がまだいいのに、と思いながら美緒は答えた。
「去年の…じゅ、12月頃か、ら…」
自分が悪いのに。
責められてるわけでもないのに、涙が勝手に湧いてきて声が震える。
「そう…恵理奈が預けられてからだね…」
美緒はうなだれたまま、こくりと頷いた。
「…何回、星野と寝たの…?」
答えたくない質問だった。
美緒は黙り込んだ。