名前を教えてあげる。


美緒の愛情を得られなかったことで、哲平は自分の心に住む悪魔の指示に従ったのだ。


「…美緒は、俺じゃダメなの…?」


やっと言葉を発した後、順の瞳から涙の雫がポロリと流れ落ちた。


……順が泣いた。


それを見た瞬間、美緒の両膝はがくりと折れ、床に付いた。


「ごめんなさい……」


両手で顔を覆い、呟くように言った。


今更、今更、今更。
なぜ、気が付かなかった…!

人はそれを裏切りと呼ぶことに。

他の男と肉体関係を持つ。

それがどんなに、最愛の男を傷付け、苦しめてしまうことか。

取り返しのつかない、万死に値する行為だということに。

無理矢理されたわけじゃない。
哲平を責める資格なんかありはしない。


「いつから付き合ってた…?」


順は美緒を見下ろし、穏やかな声で訊いた。
罵倒してくれた方がまだいいのに、と思いながら美緒は答えた。


「去年の…じゅ、12月頃か、ら…」


自分が悪いのに。
責められてるわけでもないのに、涙が勝手に湧いてきて声が震える。


「そう…恵理奈が預けられてからだね…」


美緒はうなだれたまま、こくりと頷いた。


「…何回、星野と寝たの…?」


答えたくない質問だった。
美緒は黙り込んだ。









< 431 / 459 >

この作品をシェア

pagetop