名前を教えてあげる。
薄闇の部屋を再び沈黙が支配する。
ピーポーピーポー……
静寂を破り、遠くから救急車のサイレンがきこえてきた。
車のカーステの爆音。犬が吠える声。
このまま、無言でいては逃げているのと同じだ。
正直に告白することが今は1番の謝罪になるかも…
美緒はそう思い、重い口を開いた。
「多分……5回くらい…かな…」
「………」
順がきゅっと下唇を噛み、拳を握りしめた。怒鳴られるかもしれない、と思い、美緒は顔を伏せた。
「ごめんなさい……嘘をついてて」
パチリと音がして、部屋の中が明るくなった。電気を点けた後、順はしゃがみ込んだ。
「顔を上げて」
美緒の肩に手を置き、笑顔をみせた。口の両端を引き上げるようにして。
「俺は美緒を赦すよ。
美緒は、俺の為にいろんなことを犠牲にしたよね…….高校の卒業式にも出られなかったし、せっかく決まっていた就職も蹴らざるを得なかった。
美緒は俺に未来を全部くれたんだ。
すげえ痛みを乗り越えて、恵理奈を生んでくれた。
どんなに感謝しても、足りないくらいだ。
誰にでも間違いはあるよ……時には迷いこんでしまうことだって。
だから……赦すよ」
赦すよ……順は自分に言い聞かせるように言ったあと、ぎゅっと眉を歪めた。
必死に悲しみを堪えるように。