名前を教えてあげる。
ーー違法だから警察に見つかったらヤバイけど。注意されたら、謝って降りればいいよ。
優等生の癖に、順はいたずらっぽい目をして言ったのだ。
幸い、誰にも咎められず海岸通りに着いた。
ーーああ、海の匂いだ!
美緒は悪いことをしている。
自転車で危険な二人乗りをして、学園の規則を無視している。
罪悪感を振り払おうと、美緒がまぶたを閉じ、空気を思い切り吸い込んだ時。
何かが手に触れた。
はっとして目を開ける。
順の右手が美緒の左手と重ねられていた。
思わず美緒は、その手から顔をそむけ、体育座りの膝に顔を埋めた。あまりにも予想外の出来事に言葉が出なかったし、もう限界だった。
ーーゴメン…いきなり。嫌だよね…?
順が手を引っ込め、おずおずと言うのに、美緒は思い切り頭を振った。
肩までのストレートヘアが激しく揺れる。
二人乗りしている間、ずっと緊張していて、疲れてしまった。
今日はお財布の中が乏しくて昼ご飯も菓子パン1つと牛乳しか摂っていない。
お腹が空き過ぎて、胃が痛くなっていた。
こうなるともう、空腹が耐えられなかった。
とんとん、と順が美緒の肩を叩いた。