名前を教えてあげる。
「破局してしまったのは、僕が至らなかったせいなんです……
あの状況では、美緒が心に隙を作ってしまったのも無理はなかった。美緒も色々苦しかったと思います。
あの時、美緒に対して過ちを許すと告げたけれど、時間が経つにつれて、起きてしまった事実に、なぜ?という問い質したい感情、方向性のない怒りが湧き上がってくるのを抑えられなくて。
許してもらえると思っていた美緒を責めてしまう。…それが恐ろしかった。
美緒を護ってやれなかった結果、起きたことだからそれは絶対にしてはいけない、と。1人になって冷静に考える時間が欲しかった。
……それは言い訳で、僕自身が傷付きたくなくて逃げてしまったんです」
ーー穏やかな口調で、そんな風に打ち明けてくれた。
来月ね、順君、アメリカの大学に留学するんですんですって。1年間、日本を離れるって。
「田中先生、お身体大事にして下さい…そろそろ集合時間なので、失礼します」
時間が迫ってきて、順君は、立ち上がったの。そして、白衣のポケットから何かを取り出して私に寄越したの…
「叔父のアメリカ土産です。子供の頃から僕はこれに目がなくて。お口に合うか分かりませんが、良かったらどうぞ」
それは、銀紙に包まれたチョコレート。