名前を教えてあげる。
ーー別れ際、白衣の裾を翻しながら、順君は、意志の強い眼差しを空に向けて言った。
「美緒の笑顔は、一日も忘れたことはありません。青い空を見上げるたびに一緒に過ごした日々を思い出すんです。
美緒には、いつも笑っていて欲しい。
心から美緒と恵理奈の幸福を祈ってます」って。
中里順君。
本当に優しい男の子だね……
「はい、これ。お土産よ」
田中みどりから手渡された、
チョコレートハニーヌガー。
銀紙を切り、ひと口だけかじってみた。
猛烈な甘さが口の中に広がる。
「あっ、甘〜い……」
噛み砕きながら、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
それは、17歳だった美緒と順が初めて共有した甘い思い出。
それぞれの制服姿で。まだ肌寒い砂浜で。
『美緒の笑顔は、一日も忘れたことはありません…』
みどりが伝えてくれた順からのメッセージ。
「美緒。あなた変わったよ…
昔はおどおどしてて、人の顔色ばかり伺っていたのに…いつの間にかこんなに立派なママになっちゃって…」
みどりから褒めてもらったのは、初めてだった。